第29回 NHK技術交流会レポート(各社のPro Tools HD対応オーディオ・インターフェイスの音質比較)

dream window inc. 深田 晃

 平成30年3月4日(日)NHK放送センターCR-506スタジオにてJAPRS/NHK の技術交流会が開催されました。その内容について報告します。

テーマ:各社のPro Tools HD対応オーディオ・インターフェイスの音質比較

 Pro Tools HDで使用されるオーディオ・インターフェイスはコンピュータとインターフェイスの接続にAVID社独自のDigiLinkという方式が採用されており、従来はAVID社と数社のみがPro Tools HDのインターフェイスとして使用できる状態でした。       しかし最近になって多くのメーカのオーディオ・インターフェイスがDigiLinkでの接続を可能とするようになって来ました。
 今回の技術交流会ではPro Tools HDに対応した様々なメーカのオーディオ・インターフェイスをコンソール出力にダイレクトに接続し、生音を同時録音してその音質の比較を行いました。

各社オーディオインターフェイス:
 今回比較したオーディオ・インターフェイスは7社のものになります。
各I/Oは
・Avid ProTools | MTRX …… アビッドテクノロジー
・Focusrite Red 4Pre …… メディア・インテグレーション
・Antelope Orion32 HD …… アンテロープ・オーディオ・ジャパン
・Apogee Symphony I/O MKII …… メディア・インテグレーション
・Prism Sound Titan …… ミックスウェーブ
・Burl Audio B16 Mothership …… タックシステム
・Lynx Studio Technology Aurora(n) …… フックアップ

各社のオーディオ・インターフェイスの特徴について代理店の皆さんから解説が行われましたが、簡単にその内容を紹介します。

・Avid ProTools | MTRX
Digital Audio Denmark 社のAD/DAコンバータをベースにモニターコントロール機能を追加し、モニタリング、トークバック、サミング、フォールドダウンなどの機能を使用できる。I/Oはモジュール式なのでDante、MADI、AES3、3G-SDI等様々なI/Oフォーマット間で信号の伝送が可能。

・Focusrite Red 4Pre
2つのDigiLink、8つのアナログ入力があり4つのマイクプリを備える。
ネットワークI/OとしてDanteの32/32、SPDIF、ADAT I/Oを備えトータルで58のオーディオ入力、64のオーディオ出力に対応。レイテンシーは1.67ms。Dynamic Range A/D 118dB、D/A 121dB。

・Antelope Orion32 HD
1Uで32chアナログ入出力対応。デジタルはMADI入出力(最大64ch)、ADAT入出力(最大16ch)、HDX connecter(DigiLink)(Total64ch)、USB3.0(最大192kHz64ch I/O)を備える。他社にない特徴はUSBとHDX接続を同時に行える事で2台の別のDAWを使用できる。クロックにAntelope社の単体クロックと同等のものを搭載、10MHz入力に対応。
Master OutのDynamic Range は129dB。

・Apogee Symphony I/O MKII
完全差動オペアンプを搭載したアポジー社のフラッグシップインターフェイス。最大32chのモジュラー式I/Oモジュールを採用。入力選択、モニターレベル調整、マイクプリのゲイン等様々なコントロールが可能。出力フォーマットはThunderbolt、DigiLink, Waves SoundGridの3タイプがある。Dynamic Range A/D 124dB、THD-Nは-116dB、D/A 131dB、THD-N −118dBを実現。

・Prism Sound Titan 
拡張カードスロットにてPro Tools HDXと直接接続可能。8chアナログI/O, 1x S/PDIF/AES3、8ch ADAT入出力。最大4台を2台のHDI/Oとしてエミュレートし32ch I/Oとしても使用可能。総合的なミキシング・ルーティング機能を持ち、コントロールアプリで内部ミキサーを操作できる。スタンドアローン動作も可能。5.1ch、7.1ch のサラウンドモニタリングにも対応。Dynamic Range A/D 116dB,THD-N -111dB、D/A 115dB, THD-N -106dB

・Burl Audio B16 Mothership
アナログ回路をディスクリート・トランジスタを用いてクラスA回路で動作させている。
高精度インターナルクリック。入力にトランスを使用しピーク時のサチュレーション、音色に深みを与える。レイテンシーはA/DD/Aトータルで16sample。
メインシャーシ、マザーボードに様々なモジュールを組み合わせて使用する。マザーボードでDigiLink、MADI、Dante、Digi Gridなどの接続を選択できる。

・Lynx Studio Technology Aurora (n)
8ch〜32chまでのアナログ入力を選択可能。モジュール式の拡張システムでプリアンプ、アナログサミング、デジタル(AES/EBU)等のオプションを追加可能。
USB、Thunderbolt、Pro Tools HD、DANTEに対応。マイクロSDレコーダ内蔵、最大32chのダイレクト録音、再生に対応。ディスクリートコンバータ設計で音質を追求。
Synchrolock 2TM 極めて高い精度(300,000:1)を実現。

コンバータ比較テスト:
 各コンバータを比較するためには正確にレベル調整を行わなければなりません。
今回は1台のPro Tools HD に7台のオーディオ・インターフェイスを接続するという方法が取られましたが、事前にメディア・インテグレーションの岡田氏により接続テストを行っていただきました。
NHK CR-506スタジオで演奏されたものはAPI VISIONコンソールに入力されミキシング処理されたステレオ出力はコンソールのBUS出力経由で各コンバータに入力されました。
録音時にはコンソールのダイレクト出力の音をモニターし、再生時に各コンバータの出力を切り替えて比較試聴しました。各コンバータの入力、出力レベルは-18dBFSを基準レベルに調整されました。
 比較テストはピアノとドラムスの2つの素材の録音で行われました。
NHK CR-506スタジオはメインブースとその奥に天井の高いブースがあります。
ピアノはスタジオ奥のブース、ドラムスはメインブースにセットアップされました。

1. Piano 録音
 演奏は石塚まみ氏、コンバータの比較が行いやすいように低域から高域までまんべんなく使った演奏、そして半音階のスケールも演奏していただきました。
マイキングはショップスCMC521Uをメインにし、低音域にノイマンM149、アンビエンスにサンケンCO-100Kを用い、低域から超高域までバランスよく録音されました。
下図はピアノマイキングと録音時の様子です。

2. ドラムスの録音
 演奏は川端諒太氏により行われました。Kickドラムからシンバルまで音を判断できる要素を多く用いたドラミングを行っていただきました。
 マイキングは以下の通りです。

Kick     ATM-25 Roto Tom L          MD-421
Sn        DPA4011 Roto Tom R          MD-421
Sub Sn             DPA4011 Cymbal-L              C-451B
Hihat               C-451 Cymbal R              C-451B
FTom               ND/408 Ambience-L          CO-100K
MTom              ND/408 Ambience-R CO-100K
HTom               ND/408


以下はドラムス演奏の様子です。

試聴と感想:
 今回の技術交流会は、普段実験してみたいと思ってもこれだけの機種を一堂に会して比較試聴することはまずできないということを考えると、とても有意義な交流会でした。
オーディオ・インターフェイスといっても様々な価格帯がありますが、今回はそういった情報を極力無くし純粋に音を比較するという意図で試聴が行われました。
録音フォーマットとしては48kHz/24bit、96kHz/24bit、192kHz/24bitの3種類で行いましたが、時間の都合上実際に試聴したフォーマットは96kHz/24bitを除く2種類でした。
 第一印象としては全てみんな音が違う!ということでした。ただ、どのコンバータも「これはどうかな?」という機種はありませんでした。そういった意味では各メーカとも完成度が高く音質面でも問題なく作られているなと感じました。
あるコンバータは高音域に特徴があり、ピアノのリバーブ感がとても伸びて聞こえました。また、あるコンバータはアナログ的な感じの音を特徴としていました。ドラムのアタックが早く感じる機種もありました。サンプリング周波数の違いにおいてもそれぞれのコンバータの特色はありましたが、特にシンバルの音に関しては48kHzサンプリングの時にひずみが多く感じる機種、うまくソフトクリッピングさせているように感じる機種などがありました。

 どのような音を自分が目指しているのか、というような明確なサウンドに対しての
方向性を持っている人であるなら、それぞれの個性を持った機種を選択してミキシングに生かすことも可能だと感じました。コンバータがそれぞれ個性を持っている事がよく分かった技術交流会でした。

もう一つ感じた点があります。
今回、各生楽器の演奏録音時のコンソールアウトがとても新鮮で素晴らしい音だったのですが、それが再生されると、鮮度という意味では全ての機種で録音時に聞いたような音を聞くことができませんでした。それだけ生音をトランスペアレントに再現することは難しいということだと思います。
今回の各コンバータそのものには大きな不満はありませんが、そういった意味ではまだまだデジタルの音は良くなる必要があると感じました。
コンバーターという切り口での今回の交流会は大きな収穫がある会であったと思います。

事前準備していただいた岡田氏、現場での調整に苦労された河村氏、JAPRS事務局の皆さん、またNHKの皆さんに感謝いたします。

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